ミトコンドリアの機能を保つ仕組みを解明
K. Tan, M. Fujimoto, R. Takii, E. Takaki, N. Hayashida, and A. Nakai. Mitochondrial SSBP1 protects cells from proteotoxic stresses by potentiating stress-induced HSF1 transcriptional activity. Nature Communications 6:6580, 2015
山口大学は、細胞内のエネルギー産生の場であるミトコンドリアの機能を保つ仕組みを分子レベルで解明しました。これは、山口大学大学院医学系研究科医化学分野の中井彰教授、譚克学術研究員らを中心とした研究グループによる成果です。
環境ストレスや代謝異常は、細胞内のいたるところでタンパク質の構造の異常をひき起し、老化や老化と関連する神経変性疾患群(アルツハイマー病など)の病気の進行を促進します。このような異常に対して、細胞には遺伝子発現を介してタンパク質ホメオスタシス(恒常性)を維持する仕組みが備わっています。このときに誘導されるのが異常タンパク質の修復あるいは分解を促進するストレスタンパク質群です。これまでに、細胞質でのタンパク質の異常は、転写因子HSF1の核移行を促し、DNAへの結合活性を増強することでストレスタンパク質の発現を誘導することが分っています。一方、ミトコンドリア内のタンパク質の異常を感知して核へ伝える機構は不明でした。今回、研究グループは、ミトコンドリアでDNA代謝を担うSSBP1が、タンパク質の異常をひき起すストレスによって核へ移行し、HSF1と協調してミトコンドリアで働くストレスタンパク質を誘導することを明らかにしました。この仕組みにより、タンパク質の異常をひき起すストレス条件下でも、ミトコンドリアの機能は保たれることも分かりました。
近年、ミトコンドリアの機能異常は、老化や老化と関連する神経変性疾患群の進行に密接に関わっていることが知られてきています。したがって、この研究成果は、哺乳動物細胞のミトコンドリアのタンパク質ホメオスタシスを保つ適応機構を世界ではじめて明らかにすると同時に、神経変性疾患群等に対する治療ターゲットとしての可能性も示唆します。本研究は、山口大学「新呼び水プロジェクト「難治性疾患トランスレーション研究拠点」の一環として進められ、英科学誌『Nature Communications』(3月12日付け)のオンライン版に掲載されました。
概要図 ミトコンドリアSSBP1は核へ移行してストレスタンパク質を誘導する
山口大学広報からプレスリリースを行い、2015年3月13日(金)に以下の新聞、テレビ等で報道されました。
読売新聞、NHK山口放送
読売新聞 2015年3月13日朝刊